教育費に関する情報は断片的であり、当事者になって初めて「思った以上に大変だった」と感じるものです。教育資金が準備できない場合の対策として、奨学金についての知識を持っておくことも重要です。
本コラムでは主な奨学金の種類や特徴、利用時の注意点と調べ方について解説します。
1. 日本学生支援機構の奨学金
奨学金といえば日本学生支援機構を思い浮かべる方も多いでしょう。同機構の奨学金には返済不要の「給付奨学金」と返済が必要な「貸与奨学金」があります。
1.1 給付奨学金
給付奨学金は、2020年4月からスタートした返済不要の奨学金制度で、経済的理由で進学をあきらめないよう支援します。世帯収入の基準を満たし、本人に「学ぶ意欲」があれば支援を受けられます。給付奨学金の対象者は、大学等の授業料・入学金が免除または減額されます。
利用には学力基準と家計基準の両方を満たす必要があります。学力基準は「高校の評定平均値が5段階評価で3.5以上」とされていますが、学修意欲が確認できれば利用可能です。収入基準は第1区分から第3区分に区分されていましたが、2024年より中間所得層への支援として新たに第4区分が創設されました。ただし、第4区分は「子どもが3人以上の世帯(多子世帯)」または「私立の理工農系学部」に限った支援となっています。
本人と両親(片働き)と中学生の世帯の場合、世帯年収の目安は、第1区分が271万円以下、第2区分が303万円以下、第3区分が378万円以下、第4区分が635万円以下です。
表1:日本学生支援機構「給付奨学金」の世帯年収の目安

収入基準に該当するかどうかは、日本学生支援機構の以下から確認できます。
進学資金シミュレーター
給付額は国立か私立か、自宅通学か自宅外通学かで異なります。私立で自宅外通学、第1区分の場合、毎月75,800円、4年間で約364万円が給付されます。
表2:日本学生支援機構「給付奨学金」の給付額(大学の場合)

1.2 入学金・授業料の減免
給付奨学金を利用する学生は、授業料や入学金の減免も受けられます。自動的に減免されるわけではなく、進学先の学校で別途申請が必要です。申請漏れに注意しましょう。
国公立大学で第1区分の場合、入学金282,000円、授業料535,800円(年間)が減免されます。これは国立大学の入学金、授業料に相当しますので、国立大学で第1区分の方は実質全額免除となります。
表3:日本学生支援機構「入学金・授業料の減免」の額(大学の場合)

1.3 貸与奨学金
日本学生支援機構の貸与奨学金には、第一種奨学金(無利子)と第二種奨学金(有利子)があります。これに加え、一時金を貸与する「入学時特別増額貸与奨学金(利子つき)」も利用可能です。第一種奨学金の学力基準は5段階評価で3.5以上、収入基準は4人家族(本人・親・親(年収300万円以下)、中学生)の場合は803万円です。第二種奨学金には評定平均値は設けられておらず、収入基準も同世帯で1,250万円以下と、第一種奨学金より緩やかな基準となっています。
表4:貸与月額(大学の場合)

*1 私立の医科・歯科系の場合12万円に4万円の増額ができる。私立薬学・獣医学系は12万円に2万円の増額ができる。
在学中は返済の必要がなく、卒業後に返済が開始します。返済方法には「定額返還方式」と「所得連動返還方式」があり、第二種奨学金は「定額返還方式」のみ利用できます。
第二種奨学金の場合、申込時に固定金利の「利率固定方式」と変動金利の「利率見直し方式」を選択します。貸与機関が終了する年度の一定時期まで変更できます。金利上昇局面では「利率固定方式」を、金利下降局面では「利率見直し方式」を選択するとよいでしょう。
入学時特別増額貸与奨学金を利用できるのは第一種または第二種奨学金を利用される方だけです。また、日本政策金融公庫の「国の教育ローンに申し込みをしたが利用できなかった方」が対象となります。
入学前の貸与ではないため注意が必要です。つなぎ融資として、ろうきん(労働金庫)の「入学時必要資金融資」を利用すれば入学前に資金が得られますので、こちらを併用されるとよいでしょう。
2. 地方公共団体や民間団体の奨学金
地方公共団体や民間団体の奨学金は、給付型と貸与型の両方があります。特に貸与型は無利子が多く、利用する価値があります。お住いの都道府県と市区町村の制度を調べてみるとよいでしょう。
民間団体の奨学金はその成り立ちから、出身地や学部を限定しているケースも多く、募集対象に該当する制度がないかを調べてみましょう。
表5:例)公益財団法人キーエンス財団の給付奨学金

3. 大学独自の奨学金
多くの大学が独自の奨学金制度を設けています。これらの奨学金は、条件に合えば手厚い支援を受けることができます。採用人数が1人など少数の場合は難しいかもしれませんが、大人数を募集している制度もあります。
これらの奨学金は学生にあまり知られておらず、勉強が忙しくて調べる時間がないかもしれません。親御さんが積極的に調べ、子どもに情報提供すると良いでしょう。進学先を迷っている場合は、奨学金が充実している学校を選ぶのも一つの方法です。
表6:例)早稲田大学(めざせ!都の西北奨学金)

4. 奨学金を調べる方法
奨学金の情報を効率的に調べるには、ポータルサイトの利用が便利です。代表的なサイトには「日本学生支援機構」と「ガクシー」があります。どちらも掲載数が多く、地域や大学名、給付型か貸与型かなど、様々な条件検索ができますので、積極的に活用なさるとよいでしょう。
5. まとめ
給付奨学金は返済不要ですが、貸与奨学金は返済が必要です。
卒業後の返済計画を立て、無理のない借入を心がけましょう。また、利用者本人が亡くなった場合、日本学生支援機構の奨学金では返還未済額の全部または一部の返還を免除してもらえる制度があります。しかし、申請が必要ですし必ず免除してもらえると保証されているわけではありません。日本学生支援機構以外の奨学金ではそうした免除制度がありませんので、本人に貸与額と同額の死亡保障が必要になる点にも留意が必要です。
奨学金の活用をご検討されている方は、事前に十分な情報収集をおこなうことをおすすめします。
