資産形成/運用
2026-10-02

相続後のうつす・やめる・もらう手続き

目次

はじめに

相続が発生すると、多くの方が最初に戸惑うのが「手続き」です。何から手をつければよいのか、どこに行けばよいのか、誰に頼めばよいのか、いくらかかるのか——相続は人生で何度も経験するものではないため、このような悩みは決して珍しくありません。相続後の手続きは財産の多寡にかかわらず必ず発生し、大きく分けると、被相続人名義の財産や契約の名義を「うつす」手続き、被相続人名義の契約などを「やめる」手続き、被相続人が準備していたものや死亡によって発生する権利を「もらう」手続きの3つに整理できます。会社員の場合、平日に役所や金融機関へ足を運ぶ時間を確保しづらいことも、負担を大きくする要因になります。まずは受付窓口や必要書類を確認したうえで、その手続きが自分で対応できるものか、それとも費用をかけてでも専門家に任せるべきものかを見極めることが大切です。また、「どのような手続きが」「いつまでに必要か」を事前に知っておくことで、生前に準備できることも多くあります。


「うつす」手続きの代表例

預貯金の名義変更

被相続人名義の預金口座は、口座を閉鎖し相続人に残高を移す手続きを行います。前提として、どの金融機関のどの支店に口座があるのかを確認しなければなりません。近年はインターネットバンキングの利用が増え、通帳が発行されていないケースも多いため、生前に口座の一覧を作成しておくことや、複数ある口座をある程度まとめておくことも有効です。

証券口座の名義変更

被相続人名義の証券口座から相続人名義の証券口座へ移管したうえで、株式や投資信託を継続保有するか売却するかを判断します。手続きを行う証券会社に相続人が口座を持っていない場合は、まずその証券会社に口座を開設することから始めます。株式等の管理が信託銀行で行われているケースも多く、預貯金口座の手続きに比べて時間がかかります。なお、相続手続きが完了するまでは株式や投資信託を売却できず、相続時点の評価額と手続き完了時点の時価に差が生じる点にも注意が必要です。

不動産の名義変更

土地や建物などの不動産は、相続人に名義を変更します。不動産の名義は所在地を管轄する法務局の登記簿に記載されているため、まずは現在の名義を確認しましょう。名義変更には、登記簿に相続人を新たな所有者として記載する「所有権移転登記」を行います。必要書類がそろっていれば自分で申請することもできますが、専門的な知識や正確さが求められるため司法書士に依頼するケースが一般的で、費用は約5~15万円が目安です。自分で手続きを行った場合でも、登録免許税などの実費は必ずかかります。

不動産の相続登記は、これまで任意でしたが2024年4月1日から義務化されました。相続により不動産を取得した相続人は、所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象となる可能性があります。遺産分割がまとまっていない場合でも、法定相続分での登記や「相続人申告登記」を行うことで義務を履行することができます。

図1:不動産の相続登記の義務化

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自動車・公共料金の名義変更

自動車も不動産と同様に名義変更が必要です。ローンが残っている場合は名義がディーラーやクレジット会社になっているケースがあるため、まずは車検証で現在の所有者を確認します。保管場所が変わる場合は、新しい住所地を管轄する警察署で「車庫証明」も取得します。電気・ガス・水道などの公共料金の契約が被相続人名義になっている場合も、名義変更や解約の手続きが必要です。一人暮らしの方が亡くなられた場合は、ライフラインが使えないと片付けに支障が出ることがあるため、住居の片付けが完了するまで解約せずそのままにしておくのも一つの方法です。


「やめる」手続きの代表例

年金の停止

年金受給者が亡くなった場合、市区町村へ死亡届を提出した時点で年金受給権は消滅し、現在は住民基本台帳との情報連携により年金事務所への死亡届の提出は原則不要です。一方で、亡くなった月までに受け取るはずだった「未支給年金」がある場合は、生計を同じくしていた遺族が請求できます。時効は原則5年のため、早めの手続きが必要です。

健康保険証の喪失手続き

健康保険の被保険者が亡くなった場合、勤務先や市区町村で資格喪失の手続きを行い、保険証を返却します。マイナ保険証を利用している場合、保険証そのものの返却はありません。国民健康保険では、世帯主変更などが必要なため死亡日から14日以内に市区町村で手続きを行います。扶養に入っていた家族がいる場合は、その後の加入先となる健康保険を決め、速やかに加入手続きを行う必要があります。あわせて、埋葬料(埋葬費)や高額療養費がある場合は忘れずに請求しましょう。

マイナンバーカード・運転免許証・パスポート

被相続人のマイナンバーカードは死亡により失効しますが、相続税申告や不動産の名義変更などで番号が必要になる場合があるため、事前に控えておくと手続きが円滑に進みます。運転免許証は、死亡診断書や戸籍謄本の写しなどを添えて、なるべく早めに最寄りの警察署や運転免許センターに返却します。パスポートも各都道府県の旅券事務所へ返却が必要ですが、希望すれば使用不可の処理をしたうえで記念として返却してもらうことも可能です。

携帯電話・クレジットカードなど

携帯電話は、すぐに解約する、名義を変更して家族が使い続ける、しばらく契約を継続してから解約するといった選択肢があります。故人に関係のある方から連絡が入る可能性もあるため、すぐに解約せず最低限の料金プランで維持するのも一つの方法です。クレジットカードや各種会員証・会員権は速やかに返却・解約の手続きを行いますが、死亡前の未払金やカードローンの未返済分、旅行傷害保険など付帯保険の給付金が残っている場合もあるため、カード会社に連絡し内容を確認することが重要です。


「もらう」手続きの代表例

遺族年金の請求手続き

被相続人と一定の関係にある親族で要件を満たす場合、遺族年金を受け取ることができます。「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、どちらを受け取れるかは被相続人が生前に加入していた年金制度や家族構成によって異なります。請求権には時効(5年)があるため、早めの手続きを心がけましょう。

保険金や共済金の請求手続き

被相続人が生命保険や共済に加入していた場合は、加入先に保険金・共済金の請求手続きを行います。保険会社や共済団体の契約だけでなく、クレジットカードに死亡保障や傷害保険が付帯されている場合もあるため、契約書や利用明細を確認することが重要です。加入の有無が分からない場合は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」(照会1回6,000円、災害時は無料)で、加盟する約42社を対象に確認することもできます。

企業内保障・健康保険の給付

被相続人が現役で働いていた場合、勤務先や労働組合、共済会などから死亡退職金や弔慰金が支払われることがあります。個人的に加入していた団体やクラブでも弔慰金の規定がある場合があるため、所属団体を家族で共有しておくと安心です。また、健康保険の被保険者やその被扶養者が死亡した場合、葬儀を行った方に対して、国民健康保険では「葬祭費」、被用者健康保険では「埋葬料」として給付金が支給されます。入院や通院で医療費が高額になっていた場合は、「高額療養費」として超過分の払い戻しを受けられることもあり、健康保険証の返却とあわせて請求すると効率的です。


まとめ:まずは全体像を把握することから

相続後の手続きは多岐にわたりますが、「うつす」「やめる」「もらう」の3つに整理して考えると全体像をつかみやすくなります。まずは被相続人の財産や契約の状況を整理し、自分で対応できるものと専門家に任せるべきものを見極めながら、無理のない形で進めていきましょう。日頃から家族で財産や契約の情報を共有しておくことも、遺された家族の負担を減らすことにつながります。